数年前、引っ越しを機に、防犯性の高いディンプルキーの物件に住み始めました。家族分の鍵がもう一本必要になり、私は軽い気持ちで、近所のホームセンターの合鍵コーナーに元の鍵を持って行きました。ところが、店員さんは鍵を一目見るなり、「すみません、このタイプの鍵はうちでは作れないんですよ」と申し訳なさそうに言うのです。ギザギザの鍵なら何度も作ったことがあったので、作れない鍵があるということに、まず驚きました。店員さん曰く、ディンプルキーは非常に精密な構造のため、専門の鍵屋さんでないと扱えないとのこと。そこで私は、スマートフォンで検索して見つけた鍵の専門店に足を運びました。店内には、ホームセンターでは見かけないような大きな機械が鎮座しており、いかにもプロの仕事場といった雰囲気です。職人さんに鍵を渡すと、手際よく機械にセットし、作業が始まりました。ガリガリという金属を削る音を聞きながら待つこと約二十分。出来上がった合鍵は、元の鍵と見分けがつかないほど精巧なものでした。そして、提示された値段は一本四千円。正直、千円くらいでできるだろうと高をくくっていた私は、その金額に再び驚きました。しかし、職人さんからディンプルキーの構造の複雑さや、なぜ防犯性が高いのか、そして正確に複製するための技術がいかに重要かという説明を受け、その値段に納得せざるを得ませんでした。もし、中途半端な技術で作られた精度の低い合鍵を使って、鍵穴内部の精密なピンを傷つけてしまったら、シリンダーごと交換することになり、数万円の出費になってしまうこともあるというのです。この経験を通して私が学んだのは、鍵の値段は、すなわちその家の「安心の値段」なのだということです。高い防犯性を持つ鍵は、それだけ複製が難しく、専門的な技術が必要になる。それは、私たちの安全を守るための当然の対価なのです。合鍵一本を作るという単純な行為の裏側にある、深い意味と技術の重要性を、身をもって知ることができた貴重な体験でした。
ディンプルキーの合鍵作成で私が学んだこと