スマートキーの高度な電子制御に慣れてしまうと、昔ながらの差し込むタイプの鍵を見て、「これで防犯性は大丈夫なのだろうか」と、ふと不安に思うことがあるかもしれません。映画やドラマでは、いとも簡単にピッキングで車の鍵が開けられていますが、現実はどうなのでしょうか。結論から言うと、近年の差し込むタイプの鍵に、過度な心配は不要です。その理由は、車両盗難防止の要が、物理的な鍵の形状ではなく、電子的な認証システムである「イモビライザー」に移行しているからです。まず、ピッキングによるドアの解錠についてですが、これは理論上は可能です。しかし、一昔前のギザギザした鍵ならまだしも、最近の車に採用されている、鍵の側面に複雑な溝が彫られた「ウェーブキー」は、構造が非常に複雑で、ピッキングによる解錠は専門家でも極めて困難です。そもそも、車上荒らしを目的とする窃盗犯にとって、時間のかかるピッキングよりも、窓ガラスを割って侵入する方がはるかに手っ取り早いため、ピッキングで車が狙われるケースは稀です。そして、最も重要なのが車両盗難を防ぐための最後の砦、イモビライザーです。前述の通り、たとえ何らかの方法でドアの鍵を開け、車内に侵入できたとしても、正規の鍵に埋め込まれたICチップのIDコードが認証されなければ、エンジンはかかりません。このイモビライザーの普及により、日本の自動車盗難件数は、ピーク時から大幅に減少しています。つまり、差し込むタイプの鍵の防犯性は、鍵穴そのものの物理的な防御力と、イモビライザーという電子的な防御力の二段構えで守られているのです。ですから、ご自身の車にイモビライザーが搭載されているのであれば、過度に不安になる必要はありません。とはいえ、防犯対策に「やりすぎ」はありません。より安心感を高めるためには、物理的な対策を追加するのが有効です。ハンドルを固定するハンドルロックや、タイヤをロックするホイールロックなどは、視覚的な効果も高く、窃盗犯に「この車は面倒だ」と思わせるのに非常に効果的です。また、駐車する場所を、人目につきやすい明るい場所にしたり、車内に貴重品を置いたままにしないといった基本的な心掛けも、愛車を守る上で欠かすことができない大切な対策です。