忘れもしない、ある日曜日の昼下がりの出来事です。我が家の小学生の息子がトイレに入ってからしばらくして、ドアの向こうから「開かないよう」という半泣きの声が聞こえてきました。ドアノブをガチャガチャと必死に回す音が響きます。私も外からドアノブを回してみましたが、カチャカチャと音はするものの、全く手応えがありません。いわゆる「空回り」という状態です。長年使ってきたトイレの円筒錠が、ついに寿命を迎えた瞬間でした。息子は狭い空間でパニックになり始めており、一刻も早く助け出さなければなりません。まず私は、息子に「大丈夫だから、落ち着いて」と声をかけ続けながら、解決策を必死に考えました。そうだ、トイレの鍵には外から開けるための仕組みがあったはずだ。私は記憶を頼りに、外側のドアノブの中心を観察しました。そこには、マイナスドライバーの先がちょうど収まりそうな、一本の溝が切ってあります。これこそが「非常解錠装置」です。私は工具箱からマイナスドライバーを取り出し、その溝に差し込んで、ゆっくりと力を込めて回しました。すると、カチリという小さな音と共に、ロックが解除された感触が伝わってきました。ドアは無事に開き、涙目の息子を救出することができたのです。本当に、安堵のため息が出ました。もし、この非常解錠装置の存在を知らなかったら、私はパニックになってドアを破壊しようとしていたかもしれません。今回の件で学んだ教訓は二つあります。一つは、円筒錠をはじめとする室内錠には、万が一の閉じ込めに備えた非常解錠装置が備わっていることが多いという知識の重要性です。特に、子ども部屋やトイレ、洗面所など、人が中にいる状態で鍵が故障する可能性がある場所では、この機能の有無と使い方を事前に確認しておくべきです。そしてもう一つは、錠前の不調を放置してはいけないということです。実は、故障する数週間前から、ドアノブに少しガタつきを感じていました。あの時、すぐに交換しておけば、こんな騒動は起きなかったはずです。幸い、今回は大事に至りませんでしたが、日頃からの点検と早めのメンテナンスがいかに大切かを痛感させられた出来事でした。