私たちは、金庫が開かなくなった時、最後の頼みの綱として錠前師に助けを求めます。彼らは一体どのような技術と心構えで、その難題に立ち向かっているのでしょうか。今回は、この道三十年のベテラン錠前師、田中さん(仮名)に仕事の裏側についてお話を伺いました。田中さんによると、金庫の開錠依頼は毎日ひっきりなしに舞い込んでくると言います。「ダイヤル番号を忘れた、鍵をなくした、というのがやはり王道ですね。特に多いのは、ご両親が亡くなって、遺品整理で出てきた金庫を開けてほしいというご依頼です。中身が何かわからないから、ご家族の期待と不安が入り混じったような、独特の緊張感が現場にはあります」と田中さんは語ります。開錠の技術は、金庫の種類によって全く異なります。古い手提げ金庫から、最新の指紋認証式のものまで、常に新しい知識と技術の習得が欠かせません。「ダイヤル式の場合は、やはり聴診器のような道具で内部の音を聞くのが基本です。ダイヤルを回すと、内部の円盤が動いて、正しい位置に来た時にだけ、本当に微かな音がするんです。その音を聞き分けるのが我々の仕事。風の強い日や、交通量の多い道路沿いだと、自分の心臓の音しか聞こえなくて大変ですよ」と笑います。最も印象に残っている依頼を尋ねると、少し考えた後、あるお婆さんの話を始めました。「独り暮らしのお婆さんからの依頼で、亡くなった旦那さんが使っていた金庫が開かない、と。中にはきっとへそくりが入っているんだと息巻いておられました。一時間ほど格闘してようやく開けると、中から出てきたのは現金ではなく、お婆さん宛の古い手紙の束と、若い頃の二人の写真だけ。がっかりすると思いきや、お婆さんはその手紙を抱きしめて、ありがとう、ありがとうと涙を流されて。旦那さんの愛情という、一番の宝物を見つけるお手伝いができたんだな、と。この仕事のやりがいを感じた瞬間でしたね」錠前師の仕事は、単に鍵を開ける技術だけではありません。依頼者の不安な心に寄り添い、時には大切な思い出の扉を開ける手伝いをする、責任と誇りのある仕事なのだと、田中さんの言葉から強く感じました。